これまで行政書士に関することをたくさん出してきましたが、そもそも行政書士の仕事って何か、きちんと説明していなかったと思います。2024年の年始ということもあり、改めて行政書士とは何か、基本的な部分からお話しいただければと思います。
まず、行政書士というのは基本的には許認可の専門家です。もちろん、人によっては相続など民事法務を中心に扱う方もいますが、私はあまりそちらはおすすめしていません。全くダメではないのですが、競合する専門家が多く集まる分野よりも、きちんと住み分けができている許認可業務こそが行政書士の王道だと考えています。そこで今回は主に許認可についてお話しします。
許認可業務の基本的な流れ
士業は基本的にお客様の問題解決を行うものです。つまり、お客様がいてこそ成り立ちます。私の場合、医療関係の許認可を専門にしていますので、相談に来られるのは医師の先生方です。例えば「これからクリニックを開業したい」といったご相談です。
昔は必ずお客様と直接お会いしてヒアリングを行っていました。北海道や九州、沖縄まで出向くこともありました。しかし現在はZoomなどオンライン会議システムがあるので、遠方でもすぐに相談できます。
お客様のご希望を伺い、「こういう診療をしたい」「こういう人材を揃えたい」「この物件でやりたい」といった内容に基づいて、必要な手続きを整理します。
資金調達と事業計画
クリニックを開業する場合、東京都内では5000万〜1億円ほどの資金が必要です。これをキャッシュで用意できる人は少ないため、資金調達の相談も受けます。自己資金がどれくらいあるのか、診療経験がどれほどあるのかを確認し、金融機関との交渉や事業計画の作成方法についてアドバイスします。
また、クリニックを作るためには保健所への手続きも必要で、図面や検査結果なども整えなくてはなりません。例えばX線装置を設置するなら放射線漏洩検査の結果を提出する必要があります。さらに物件を適法に使用できる権限があるかどうか、賃貸借契約書も確認します。
業種ごとに異なる対応
医療だけでなく、キャバクラや飲食店、建設業など、扱う業種によって必要な書類や要件は異なります。お客様と打ち合わせを重ね、用意できるものと難しいものを整理し、役所に確認しながら進めていきます。
許認可は「人・物・金」が揃わなければ取得できません。足りないものがあれば一緒に準備方法を検討し、スケジュールを管理して進めていきます。
契約と報酬の取り決め
初回相談は無料で行う事務所が多いですが、そこで実際に依頼を受けるかどうかを確認します。「お任せします」と言っていただけたら、契約書や委任状を作成し、正式に業務を始めます。
報酬の取り決めは事務所ごとに異なります。着手金を先にいただく場合、事前調査分だけ請求する場合、許可が下りたら残額をいただく場合などがあります。重要なのは、最初にきちんと取り決めをしておくことです。これを怠ると、無料相談が続いたり、契約もないまま進んでしまい、最悪の場合は損害賠償請求だけ受けることもあります。
トラブル防止と行政書士の責任
契約書には「どの段階で契約が成立するのか」「どの段階で報酬が発生するのか」「必要書類が揃わない場合は開業日に間に合わないことがある」という点を明記しておくことが重要です。
こうした取り決めを怠ると、依頼人からの問い合わせだけが増え、報酬が発生しないまま業務を続ける羽目になります。結果として信頼を失い、専門家としての責任を果たせなくなります。
一応、行政書士には損害賠償保険がありますが、できれば使わない方がいいに決まっています。大切なのは、契約やスケジュール管理を含め、行政書士が主導して案件を進めていくことです。
行政書士の本当の役割とは
これが主な行政書士の仕事ですね。行政書士というと「代書屋さん」という印象を持っている方も多く、言われたことをそのまま申請書に書く“通訳”のような仕事を想像される方も多いんですが、全然そういうことではないんです。大事なのはプロジェクト全体のディレクションなんですよ。このプロジェクトを問題なく解決するために、すべてこちらでリードしていかなければならないんです。
よく「AIにすべて置き換えられる」と言う人がいますが、確かに入力作業のような単純な部分はテクノロジーの進化で減っていくと思います。でも本質はそこじゃない。許認可業務とは、お客様が抱える課題を解決するプロジェクトを円滑に進めること、これが専門家の役割なんです。私は常々「専門特化した方がいい」と話していますが、それは特定の業界や業種ごとに必要な時間管理や注意点があり、それを押さえてこそスムーズに問題解決ができるからです。
専門特化の重要性
私の場合は医療ですが、建設業や他業種もやるとなれば、それぞれのタイムスケジュールや注意点を全部押さえなければなりません。これは非常に大変で、ミスがあればお客様に大きな迷惑がかかります。だからこそ行政書士には価値があるんです。AIにディレクションを任せるのは難しいし危険です。むしろ専門家に任せてリードしてもらいたい、というのがお客様のニーズなんですよ。
つまり、お客様の望みは「申請書を間違いなく出すこと」ではなく「事業を成功させること」なんです。代書業務なんて全体の一割程度で、残りの九割はプロジェクトを実現するためのディレクションなんです。許認可というのは本当に奥が深いですよ。
書類作成と時間管理
申請書はただの紙なので、書こうと思えば誰でも書けます。でも、それだけでは通りません。証拠となる添付書類が揃っていなければ許認可は下りないんです。そして申請は即日OKにはならず、1ヶ月かかるものもあれば2ヶ月、半年かかるものもあります。だから開業日から逆算して、いつまでにどの書類を用意しなければならないかを管理する必要があります。
しかし、ここで問題になるのが「お客様が期限までに書類を出してくれない」ことです。これを放置すると「言った言わない」のトラブルになります。だから事前に何度も案内し、証拠が残る形で(メールやチャットなど)伝えておかなければならないんです。督促をためらう方も多いですが、私たちの役割はプロジェクトを実現すること。遠慮せず積極的にプッシュすることが大切です。
行政との交渉と専門家の責任
役所も書類だけで判断するため、「これが足りない」「この記載はどういう意味か」と指摘してきます。その時に、単に「役所がこう言ってました」と事業主に伝えるだけでは意味がありません。大切なのは「条文上こういう解釈もできる」「このような事例もある」と根拠を示したり、「代替書類でも目的を果たせますよね」と交渉することです。
特に事例が少ない許認可ほど役所は慎重で、安易に前例を作りたがりません。だからこそ、説得や交渉を通じて解決策を提示するのが行政書士の役割です。そして専門分野を絞るほど、その分野に関するノウハウが蓄積され、「この分野ならあの人」と評価される立場を築けます。
行政書士は夢を叶えるサポーター
仕事内容を聞くと、「代書屋」というイメージとは全然違いますよね。行政書士は、ただ申請書を書く人ではなく、事業を始めたい、店を出したいという人の夢を実現するためのコンサルタントでありディレクターです。言い換えれば「夢のお手伝い」をするのが仕事なんです。